歴史15 / 聖武天皇漫遊記②
※①のつづきです
時は天平15年、地震が起こる、飢饉が起こる、そこへ悪い病気が大流行する。この時の天皇さんが聖武天皇。なんとかせねばというので、庶民のために大仏を立てて平和を祈願しようとした。今の奈良の大仏さんや。なかなか信心深い人やなあ。
しかし、人間二つ良いとこはない。この聖武天皇は一代のうちに五回も都をかわってるねん。まずは平城京、次に恭仁(くに)京、そして難波京、紫香楽(しがらき)京、最後にまた平城京に戻ってくる。じっとしてるのが性に合わん人あったんやなあ。

そやから、年に何回0も行幸(みゆき)をしてる。ホルモン屋のミユキとちゃうで。天皇さんが旅に出ることや。普通は大勢の家来を連れて旅に出るのやが、なかなかの庶民思いのお方や、家来数人だけ連れてお忍びで旅に出るということもあったそうな。
時に天平16年一月のことや。恭仁京を都とするか、難波を都とするかどっちにしようかと迷っていた。そこで家来の者にたずねると、恭仁京という意見が大勢を占める。よし分かった、恭仁京にしよう、と決心をする。しかし、それでは難波に準備にやらせた家来どもに申しわけない、事情を説明せねばというので、家来の者数人を連れてお忍びで旅立った。
聖武天皇は大和の薬問屋のご隠居で聖衛門、息子の安積親王(あづみしんのう)と大臣の橘諸兄(たちばなのもろえ)はその手代という旅姿。

後ろから影となってつき従うのは行基(ぎょうぎ)というお坊さん。この人は、大和の岡寺で法相宗の道照に帰依し、修行を積んで呪術にたけた人。その力で多くの信者を集め、庶民のために土木工事をし、お寺を建てていた。ところが、無許可の営業であったがために、勝手なことをするなと聖武天皇からにらまれていたんや。
しかし、この時は、大仏を作って人々の平和を願おうとする聖武天皇の気持ちと意見が一致して、今は大仏建立のお金集めに苦心していた。後に大僧正にまでなる人や。
一行は、本来ならば大和川にそって竜田道を下るのやが、河内の荒れようがはなはだしいというので、下つ道を南にとり、飛鳥から横大路を西に、二上山の竹ノ内峠を越えて、やって来たのが喜志村や!

陽もとっぷりと暮れてきた。どこぞで宿をと思うのやが、この時の喜志は、聞きしにもまさる荒れようで宿屋が無かった。
そこで、橘諸兄が言うには「川面の隣に桜井という村がございます。ここに私の知り合いの桜井田部連犬(さくらいのたべのむらじいぬ)という豪族がおります。私の母、つまり天皇の奥様の光明皇后様の母でもある県犬養橘三千代(あがたのいぬかいたちばなのみちよ)とは遠縁にあたります。快く泊めてくれることでしょう」。
諸兄が行基に目配せをする。行基がすっと姿を消す。先乗りしてこいということやなあ。

一行が桜井田部の館へ向かおうとしたその時や。十数人のならず者が草むらから飛び出して、周りを取り囲んだ。
「身ぐるみ脱いで置いていかんかい!」
さっきも言うたように、飢饉が続いて人々の気持ちもすさんでいたんやなあ。諸百が聖武天皇の盾となって、「おいおい、この方を」と言おうとすると、聖武が「待て待て、まずはこらしめてあげなさい」と言う。さあこっからチャンチャンバラバラチャンバラバラや。諸兄と安積親王が次から次へと盗賊をやっつけていく。
あと数人という時や、盗賊の頭領(かしら)が、ご老公の後ろから斬りかかろうとした。ご老公危うし! その時、ひゅるひゅると風車が飛んできて頭領の手にブスッと刺さった。忍者のように行基が飛び出してきて、頭領をやっけてしもた。風車の弥七みたいなもんやなあ。

しばらくすると、桜井田部連も騒ぎに気づいてやって来た。聖武天皇、もうよかろうと杖をトンとつく。それを合図に諸兄が、風呂敷でつつんだ柳行李の中から木箱を取りだした。大和の置き薬が置いていくあの箱や。その箱をかかげて、「ひかえ、ひかえ! この方をどなたと心得る。天の下をしらしめす帝、聖武天皇なるぞ。一同の者、頭が高い!」
盗賊も桜井田部も何のことじゃと置き薬の箱を見た。普通はダルマのマークや。「寝てもすぐに起きる」というマークなんやが、ここはそんなんと違う。なんちゅうても天皇さんや。菊の御紋がドーンと付いたあるがな。これを見て皆はびっくりや。その場にハハッーとひれ伏した。
「天下を乱す極悪人め。その身柄、桜井田部連に預ける。厳しき沙汰あるまで神妙にいたせ」
天皇の言葉に盗賊はハハーと地べたに頭をひっけた、というこっちや!

身振り手振りよろしく、春やんは話すものだから、膳の上はぐちゃぐちゃで、銚子はひっくり返り、畳の上は酒びたしだ。
「春やん、それほんまかいな?」
「ほんまもほんま、ほんまちよこじゃ。この後、大阪側の荒れようがあまりにもひどいことに気づいた聖武天皇は、恭仁京に都をおくことをやめて、急に大阪の難波を都にした。それと、この時に安積親王は溝に足を突っ込んでくじいたんや。それで、一人だけ恭仁京に帰るんやが、諸兄のライバル、政敵の藤原仲麻呂に……」
と、言いかけて春やんは、うっと言葉につまった。
それもそのはず、安積親王は暗殺されていたのだ。嫁入りに死ぬ話はゲンが悪かった。